第十二章



どす黒い感情の膨らみを察知して遠くから咄嗟に叫んだのはリオンだった。直後に至近距離のダーズの背後に幾つもの魔法陣が展開したかと思うとそれぞれが外側から中央に向かって渦を巻いて虚無を作り出し、その奥から目にも留まらぬ速度で先端鋭利な黒い触手が飛び出す。

「ルフレ、マーク!」

ロックマンが腕を打ち払いながら声を上げると双子の足下に金色の巨大な魔法陣が展開。広げた魔導書がばたばたと音を立てて捲られる中もう片方の手を前方に突き出して翳せば魔法が放たれる。

「トロン!」

一方でルーティ達もまさかただ呆然と棒立ちをしていたはずもなくその魔法が放たれるより早く行動に移していた。カービィの腕から飛び出したラディスが四つ足を踏ん張って雷を放つのに合わせてルーティも両手を突き出して放電──襲い来る触手に対抗する。

「うわっ!」

双子軍師の放った雷魔法が触手に届いたのはその直後のことで直撃したのか否か一帯を黒煙で包み込む爆発を起こした。ルーティが咳き込む最中、休む暇すら与えないといったように腰に巻き付いた何かにぐんと引かれるがまま。

「つ、ッ」

解放されれば地面に尻餅──あの場からの離脱を手伝ってくれたのはどうやらシモンだった。

「全員無事か!?」

声を上げたのはリヒターである。他にもその場にはベレトやベレスが居合わせており恐らくはこの一時離脱を助けるべく鞭や鎖といった固有の武器を持ち合わせる彼らが急ぎ参じたものと思われる。ルーティが頷いて応えて立ち上がりながら見渡すと他も退避に成功した様子。ほっと息をついたのも束の間。


「嘘つき」


小さく呟かれた声にギクリとした。

「信じてたのに」
「、ダーズ」
「友達ができたと思ったのに」

ぽつりぽつりと言の葉が零れ落ちる。

「……の」


裏切り者裏切り者裏切り者──


ダーズは狂ったように繰り返して頭を抱える。

「ぼくのオレのボクらのおれたちの」

空気が震える。突き刺さる。

その内。遠く何かがひび割れる音がして。

「邪魔をするなぁッ!」
 
 
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