第十一章



……えっ? それまで話を片耳にしているだけのつもりだったルーティは唖然とした。

クレシスはスピカの父親だ。それが一体どうしてこのタイミングでその名前が出てきたのか分からないが今この状況を打破させるべく咄嗟についた嘘とも思えない。実の父親を貶すつもりはないがそんな演技が出来るような特別器用な人でもないということは残念ながら周知の事実というもの。


だとしたら、本当に?

今。スピカの中に──クレシスさんが?


「ミカゲ」

ジョーカーが名前を呼んだ。その声色から、どうするのか判断を委ねている様子である。

「かの事件を解決したその一人ともなれば英雄に等しいことは明白だろう?」

ラディスは言葉を待たず続ける。

「その英雄を──手に掛けられるかい?」


雰囲気や空気の流れに僅かな──けれど肌に感じ取れる程あからさまな変化を感じ取った。


「そう簡単に信用できる話でもないだろうね」

……ミカゲは黙っている。

「気に入らないのなら試すかい?」

激戦の音を背景に。

「君たちの言い分は最もだし意志も尊重しよう。その上での正義なら止めはしない」


ただし。


「この事件の解決後──君たちもよく知っているであろう一人の男が忽然と姿を消すことになると思うけどね」
 
 
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