第十一章



間に合ってよかった……けど。

ルーティは惨状に思わず眉を顰めた。稲妻の餌食となったのは森を形作る茂みや木といった緑だけではない──点々と倒れ伏せる双神の紛い物は残念ながらどれも微動だにしなかった。精巧に作られていないお陰か血生臭い匂いまでしないのは救いだったが腕や脚が有らぬ方向を向いているのは正直言って目を背けたいところではある。

そして──そんな惨状を生み出した犯人は今現在火の海の真っ只中に居る。こうも暴れられたのでは敵の援軍を招きそうなものだがそもそもそれで素直に説得に応じてくれるのであればここまでのことにはならないという話。

「……何。あれ」

遅れて降り立ったカービィが呟いた。

無理もない──未だ黒の閃光を体の至る所に走らせるその人基スピカの両目は結膜を真っ黒に染め上げられていたのだ。その上で右腕は二の腕半ばから黒く変色して指先が獣のように尖っている。続けざま参じたジョーカーとミカゲもその惨状に迷わず各々の武器を構えた。

「待ってよ。戦うの?」

カービィが言うもミカゲは目を細めて。

「……無論!」

止める間もなく──ひと度瞬きをすればそこに残るのは僅かな土埃だけ。気付けばミカゲは水苦無を逆手にスピカの正面まで踏み込んでおり喉笛を狙って構えた腕を引いた。

遅れて接近に気付いたスピカは頭痛が原因か否か再び頭を抱えて黒の閃光を走らせる。無論、それに気付かないはずもない。ポケモンとしての相性で見れば自身が不利な側であることは分かっているのだ。故になるべく直撃は免れたい──やむを得ずミカゲが人差し指と中指を立てると術が発動して真っ白な煙幕が撒かれた。

「、!」

直後煙幕の中から飛び出したワイヤーがスピカの右手首に巻き付いて捕らえる。スピカは一瞬目を小さく開いたが、即座に顔を顰めると纏わり付く閃光を一気に解き放つが如く放電した。
 
 
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