第十一章



そのまま言葉を続けるよりも早く茂みの中から飛び出してきたのは青と赤の影だった。ラディスは咄嗟にスピカを庇うように前に飛び出して四つ足で踏ん張りながら青の閃光を迸らせたが直後──放電。それを躱すでもなく守るでもなく真っ向から受けて弾き飛ばされた影の正体は恐らくのこと多くが察せられていたであろうマスターハンドとクレイジーハンド──ではなくその偽物。

「す、」

言いかけたが直後地面を蹴り出して飛び出してきたのは偽物のクレイジーの方。偽物とは言ったところで結局は破壊神──今見る限り戦力に数えられない状態の彼を助ける為にその身を持って庇おうとすれば粉々に吹き飛んでしまう可能性だって有り得ない話じゃない。となれば抵抗の手段は一つだけとラディスは接近を妨げるべく電撃を繰り出したがそれを阻んだのは薄青の防壁である。

まさか偽物のマスターが偽物のクレイジーのことを攻撃から守ってくれるものだとは思いもしなかったが本来これこそが正しい光景だと思い出す。いくら何でもどうしてこのタイミングで、等と心の中で己の悪運を呪いながら迫り来るそのひとを前にラディスは冷や汗を浮かべながら。

「スピカ君っ!」


ドクンと心臓が跳ねる。


「ぐあっ!」

どんな攻撃をその身に受けたのか知らずとも相手はあの破壊神──容赦なく弾き飛ばされた先で木の幹に体を叩き付けられて地面に横たわるか弱いばかりの黄色い生き物を目で追った後でスピカは様々な感情から眉を顰める。

「……くそ」


銃声。吹き荒ぶ風の音。

耳に焼き付いた記憶が揺さぶってくる。


「スピカ……く」


俺はコイツを知っている。


「……クレシス……」
 
 
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