第十一章
黒の閃光が音を立てて肌の表面を迸った──かと思えば刹那四方八方へ散らばるようにして放電。次いで地面を見据えれば黒を帯びた電撃は踵を返して伸ばした腕に纏わり付くように集い翳された手のひらの先から束ねて一気に放出される。
誰が何を思うよりも早く地面に到達したそれは僅かに土や石を抉りながら主人の落下速度を急速に緩めていく。そうして地面との距離感を目で見て測りながら放電の量を調節──その内に地面が目と鼻の先ともなればスピカは手のひらを横に薙ぎながら拳を握って放電を中断した後、体を大きく捻り横に回転して地面に着地。
「おおぉ……」
しがみついていたラディスはぼそっと。
「……かっこいいな」
不測の事態とは今この現状のことを指すのだろう──スピカは睨み付けるように空を見上げる。果てのない厚い雲の裏側ではただ巻き込まれただけの此方側の気など知らずに神々が絶え間なく飽き足らず争ってくれていることだろう。
「うーん」
困ったように唸る声は足下から。
「……何か通信機のようなものは」
スピカが静かに視線だけを寄越せば。
「だよねぇ」
察してくれたらしい。
「……スピカ君?」
ものの見事に頼りの仲間と逸れてしまった──これから先どうしたものかと小さな腕を組んで思考を巡らせていれば砂利の音。気付いたラディスが振り返れば案の定少し先をスピカが歩いていくところなのだから思わず目を丸くする。
「何か考えがあるのかい?」
急いで追いかけてその隣を歩きながら聞いてみたがうんともすんとも。ついてくるなと言い付けてこない辺り毛嫌いしてる訳でもなさそうだが。
「……さっきの光」
スピカはようやく口を開く。
「意思を持って俺たちを潰すつもりだった」
歩いていく先には小さな森が見える。
「身を隠した方がいい」
ぽつりと。
「……少なくとも、今は」