第十一章
異変を感じて振り向いたルーティは驚愕した。
なんと──ウルフェンの片翼の付け根にワイヤーを引っ掛けたドミノマスクの青年がぶら下がっていたのだ。どうりで機体が大きく揺れるわけだと疑問は解消されたが更に追い討ちで機体が揺られてしまえばいい加減にルーティも事態と向き合うべく振り返ったがそれより早く。
「動くな」
息が──止まる。
もちろん正確には止まっていないのだが限りなく近い感覚を覚えた。凍り付くような冷たい声と同時に首筋にあてがわれたのは紛れもない鋭利な刃物で──切れ味が抜群であろうそれは猛獣が獲物を前に舌なめずりをするかのようにぎらりと銀の光沢を走らせる。
「、み」
その声も姿も間違いない。彼は──そうしてその名前を口にしようとして噤んだのはあてがわれたそれを僅かに食い込ませてきたからである。
当然、皮膚が切れて血が滲む。その間にドミノマスクの青年が反動を付けて飛び上がり機体の上に着地した。ウルフェンを操縦しているウルフも一切の口を挟まず、かといって無理矢理に機体を揺らして振り落とそうともしない辺り、流石にこの状況が読めているようだ。
「ミカゲ」
ドミノマスクの青年が代わりに呼んだ。
「そいつは本物なのか?」
一体。いつ。どうやって。
彼らが覚醒している理由が分からない。
……でも。
「証拠の提示を要求する」
ミカゲは変わらず冷たく見据えながら。
「貴様は──"本物"か?」