第十一章



神々の戦いにおいては人間など所詮は蚊帳の外でしかないとでもいうように。勝敗も何も全て覆い隠すかの如く果てなく続く黄金と黒の入り混じる雲の壁はさながら母なる海のようで──

「っ……!」

色濃く分厚い雲の壁を抜けた先にまた神々も知らぬ別の戦場があった。螺旋のように大きく連なって足場の役割を果たす混沌と闇の化身の使役する触手の助けを借りて着地までは叶えたが息は絶え絶えに。節々には既に赤々と痛ましい複数の切り傷を刻まれてしまっている。

「しぶといな」

ワイヤーを操り軽やかに着地して。小さく呟きながら赤の手袋の裾を引いて黒のロングコートを翻したのは白黒のドミノマスクの青年。

「想定より時間を有している」

続けてその表情からは読み取れないもののばつが悪いといったようにぽつりと口を開いたのは忍び装束に赤いマフラーの青年だった。

「どういうことだ?」
「事前情報と噛み合わない」
「つまり?」

目を細めて紡ぐ。


「スピカ・リーじゃない可能性がある」


小さく咳き込んで口の端に滲んだ血を拭う。

「……スピカ君!」

追ってくるのは勝手だがよくもまあ無事だったものだと感心を抱きながら名前を呼んで駆け付けてきた黄色い生き物を一瞥くれたが刹那鋭い頭痛が走って視界にノイズが走った。

「っ、大丈夫かい!?」


そんな風に大袈裟に声を上げたのでは。

連中に勘付かれるのに。


「っ……呼ぶな……!」


俺は。


「スピカ君、危ないッ!」
 
 
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