第十一章
ああ。……始まってしまった。
「ルーティっ」
目の前で繰り広げられているのはかつて誰よりも深く愛し合った神々の戦いである。目を奪われないはずもなく見とれていればカービィが呼ぶのでルーティは我に返って下を覗き込んだ。黄金と黒の入り混じる果てない雲の海──それを突き破って見えたのは紛れもない黒い雷である。恐らく視覚的に雲の壁が邪魔しているというだけでそのすぐ下ではダーズが話した通り触手が足場の役割を果たして助けてくれているのだろう。
「我々は様子を見て続きます」
ダークファルコが言った。
「必要なら抱えるけど」
「ううん。大丈夫」
ルーティはカービィを断って深呼吸をする。
「……ルーティ」
今まさに飛び出そうという直前でダークウルフに呼び止められて振り返れば。
「リーダーを頼む」
本来であれば何処までも追いかけて記憶があろうとなかろうと力になりたかったことだろう。そんな忠犬の写したる彼が役割を優先して委ねようとしている──気持ちを汲み取らないはずもない。ルーティは深く頷いて応えた。
「行ってきます」
今現在繰り広げられている神々の戦いを止めることができたならそれが一番手っ取り早いのだと分かってはいるが段取りを踏まなければ返り討ちに遭うだけ──静かに息を呑んで目を伏せ冷静に。地面を蹴り出して外の世界へ飛び込む。
「……リーダー」
追ってカービィが飛び込んだ後でダークウルフは見下ろしながらぽつりと呟く。
「どうか、ご無事で──」