第十一章
◆第十一章『父』
ダーズの潜んでいたこの空間が一体どれだけ高い場所にあったのか──強く吹き抜ける風に思わず目を凝らせど真下には煌めく雲が広がるばかりで肝心の底の様子が窺えない。そうしてルーティを筆頭とした面々が目を見張っている間にも黄金色の空を暗く濁った限りなく黒に近いむ紫がこの空間を起点に侵食していき、その上で触手の群れが不気味に蠢きながら進行を開始している。
「あはっ」
ルーティの後ろでダーズが笑った。
「来た来た」
刹那。
「──!」
向かって正面から未だ記憶に色濃く残るあの光の束が畝り、交差して不規則な動きを見せながら群れを成して飛んできたのだ。息呑む間に侵攻を図る触手を幾つか貫いたが直後真下に広がっていた雲を弾いて飛び出したのはクレイジー──転々と空間転移して撃ち抜かれた触手を足場に蹴り出すと広く赤の障壁を展開して幾度となく飛んでくる光の束を無効化した。
然れども息つく間もなく青白い光が赤の障壁の周辺にぽつぽつと現れたかと思うとそれは程なく矢の形を成して一斉に突撃──複数の爆発を起こして障壁は砕かれたが立ち込める黒煙を突き破ってクレイジーが飛び出した先には。
「ふふっ」
恍惚と目を細めながら。
「……お兄様」
ダーズは指先を合わせて笑う。
「ごきげんよう?」
赤黒いオーラを纏う拳を握ったクレイジーの目にも止まらぬ渾身の一撃を、薄青の防壁を展開して防いだのは其方の兄ではなかった。
それでも。
「小虫まで引き連れて御苦労な事だ」
かつて愛し合った兄弟なのに。
こんなにも悲劇的な再会があるのか──