第十章



他と違って変に信仰したり声を上げて狂うこともなければ敵対意識も見られないのが何とも珍しいパターンだったが同時に救いでもあった。記憶を取り戻すのは容易ではないのかもしれないがそれでも今は無事でいてくれたらそれで。

「大丈夫だよ」

安心させるように優しい声音で答えるラディスにルーティも小さく頷いた次の瞬間である。

「えっ」

何かを察知したウルフがルーティの腕を掴んで力ずくで引き寄せた。カービィも気付いて目を向けたがそれより早く影は風を切るかの如く素早くその間を縫って一閃を走らせながら──遅れて振り返ったスピカに襲いかかる。

「危ないッ!」


受けて流すつもりが巻き込まれて。

その影諸共外の世界へ。


「リーダー!?」
「げぇっ、またかよぉ」
「次から次へと忙しいですね」

事態に気付いたダークウルフは急ぎ空間の裂け目基縁に掴まりながら身を乗り出すような形で外の世界を覗き込んだ。

「ちょっと!」

それだけに留まらない──驚いて声を上げるカービィを振り返れば今度はラディスが駆けていくところだったのだ。そうして迷わずこの空間から飛び出して外の世界へ落ちていくのだからルーティも思わずウルフの手を振り解いて駆け寄りダークウルフと並んで空間の縁に掴まりながら叫ぶ。


「父さんッ!」


予想だにしない阿鼻叫喚の事態を知ってか知らずか嘲笑うかのように高笑いするダーズの声に従うかの如く、破り開かれた空間から黒が滲んで黄金色の空をじわじわと侵食していく。


「お兄様ぁ」


……塗り潰されていく。


「約束の時間だよ」


瞳孔の開いた空色の瞳が闇に浮かぶ。

声が響く。


「最高の最期にしようね──?」
 
 
 
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