第十章
……言葉にならなかった。
複製のエネルギーが知らぬ誰かの命そのものというのを知ってしまったからこそ、それがそう簡単に体に馴染んでくれるものでもないということも容易に想像がつく。故に半永久的な痛みや苦しみを味わされているのだとすればこれから表の世界に出向いて仲間たちを正気に戻すべく奮闘しようなんて悠長なことは言っていられないのでは──
「そうだよ?」
こう何度も仕掛けられると。
驚くものも驚かなくなっていた。
「時間がないの」
目と鼻の先。
「おれも」
限界まで顔を近付けて覗き込みながら。
「──お前も」
攻撃を下したのであろう盾の役割を果たしている触手の群れの裏側で耳を劈くような爆発音が鳴った。繰り返し鳴るそれに加えて地面が振動しても尚ダーズは表情ひとつ変えない。
「安心して?」
ルーティは目を見張る。
「すぐに終わるから」
それだけの勝算があるという意味なのか。それとも所詮自分はキーラに敵わないと見越した上でのいわゆる諦めの意味合いなのか。尚もルーティが何も返さずに黙っているとダーズは後ろ手を組みながら振り返って触手の群れを見た。そうして触手がダーズの意思に従うようにして左右に退くとようやくクレイジーの姿を視認できたが。
「グ、ヴァアアッ! アアアッ!」
……まるで獣の咆哮のような叫び声を上げながら頭を抱えて苦しんでいる。口の中を噛んでしまった影響なのか口の端からは赤い血が垂れて頬や首筋には引っ掻き傷が出来てしまっておりまさしく見るに耐えない姿を晒していた。
「ダーズ様。急いだ方がよろしいのでは」
焦りから冷や汗を浮かべるダークウルフを横目に見兼ねたのかダークファルコが言う。
「急かさなくたってそのつもりだよ?」
ダーズは笑った。
「行こっか」