第十章
……反応がない。
「死んだんじゃないの?」
「それ君が言っていいのかい?」
カービィとラディスのやり取りを片耳にルーティがじっと目を見張っていればようやく左手の指先がぴくりと動いたように見えた。その内に腕を引いて地面に手を付くような体勢となりおもむろに体を起こし始めたので一先ずは生きているんだと安堵の息をついたのも束の間。
「──!」
……なんだ?
この禍々しい殺気は──!?
「下がれッ!」
ルーティが我に返ったその直後。ウルフがその前に飛び出しながらリフレクターを展開したのとほぼ同時──揺らぐ前髪の隙間から覗いた左目の赤が瞬いたかと思うとクレイジーを中心に赤黒い波紋が放たれた。それは薄赤の障壁をいとも容易く砕くと誰が標的でもなく見境なく。
「あはっ!」
土煙が立ち込める。
「すごいすごい!」
ルーティは閉じていた瞼をそっと開く。
「──これならお兄様にだって勝てるかも!」
一行を守るようにして衝撃波の盾となったのは黒い触手の群れだった。使役するその主人はちょうどルーティの前に浮遊していて服の袖口を口元に運びながら呑気に笑っている。
「、お前……」
ダークウルフは声を震わせながら、
「クレイジー様に、何を……」
「あれあれ? 言ったはずだよ?」
ダーズは手を後ろに組んで振り返る。
「クレイジーハンドの身体に複製のエネルギーを注入したんだって。エネルギーとかいってもお前たちも知っているように実際の正体は命そのものだからね。拒否反応が出てるみたい」
あっけらかんとした様子で。
「きっと、これまで受けたどんな傷よりも痛くて熱くて苦しくて仕方ないはずだよ。破壊の限りを尽くしてきた神様である自分が壊されるのって、一体どんな気分なんだろうね?」