第十章
……やっぱり。
ダーズも気付いてる。自分自身忘れかけていた要素だけどお陰で思い出した──ダーズには、僕の考えが手に取るように分かるんだ。
確かにダーズの言った通り今まで一緒に戦ってきた仲間たちだけじゃなくて世界中の人間を助けようだなんてあまりにも壮大すぎるし無理な話だと思う。無茶だの無駄だのと嘲り笑われて罵られたところで仕方のないことかもしれない。
……だとしても、僕は。
「ふふ」
一切目を背けずにじっと見つめ返すルーティの瞳の中に揺るぎない闘志というものを垣間見たのかダーズは小さく笑みを零してパッと離れる。
「探そうと思えば見つかると思うよ」
何の話かと思えば。
「これの母体」
話を引き戻したようだった。見つけてもらったところで正気は失われていることだろうが何かの間違いでうっかり(うっかりで済む問題でもないが)殺されていやしないか安否が気になるのが正直なところである。ルーティは複製を見下すダーズを目にその言葉に甘えようとした。
……が。
「そろそろ終わったんじゃないか?」
進み出るなり口を挟んだのはラディスである。
ダーズは顔だけ振り返って見つめていたが直後に姿を掻き消して。辺りを見回せば話を振られた通り例の触手の群れに捕らわれたクレイジーの前に移動して浮遊しながら覗き込んでいる。
「……みたいだね?」
ダーズはそう言って後ろに下がると周辺で蠢く触手の内一つの上に腰を下ろした。そのまま、人差し指を立てて緩やかに手を振るえばまるで魔法を解かれたかのようにクレイジーに纏わり付いていた触手がその身を引くので結果としてクレイジーは地面へ投げ出される形に。これには流石のダークウルフも条件反射で飛び出しそうになったが、冷静にダークファルコが腕を伸ばし妨げた。
「……ふふふっ」
ダーズは肩を竦めて笑う。
「クレイジーハンド」
呼びかける。
「……おはよう?」