第十章



尾長鶏の尾羽のように後ろ髪の一部だけが長い紺色の髪──その内側の空を映したような色は暗闇の中でも比較的目立つ。彼の役職柄それは如何なものかと疑問が浮かんだがご覧の通り今はそれどころではない。けれどまさか自分たちを無視して味方であるはずのスピカに襲いかかるものだとは思いもしなかった。

「父さんっ!」

止めようと提案するより自分が動くより早く飛び出すラディスにルーティは声を上げる。どちらもが特殊な能力の使い手だとは言っても武具を扱うミカゲの方が圧倒的に有利だというのは嫌でも分かる。しかしダーズの洗脳を受けたからといってダーズの支配下であれば手出ししないというわけではないのだろうか?

「、!」

一瞬の隙を突いた足払いによりバランスを崩したスピカにすかさず水苦無を構えた腕を引くミカゲだったがその間に割って入るようにして飛び込んだのはラディスだった。説得が通じないのは充分に理解している──だからこそ。

「すまないっ!」

ラディスの頬に青い閃光が迸るとミカゲは小さく目を開いて水苦無を消失させた後素早くその手で印を結んだ。そうして術が発動するが早いか否か電撃が放たれたのと同時に爆発が起こり黒煙が立ち込める事態に──ラディスは着地すると体勢を立て直したスピカを背に訊ねた。

「大丈夫かいっ!?」


鈍痛。


「スピカ君?」

名前を呼ばれてハッと我に返る。いつの間に頭を抱えていた手をゆっくりと離しながら。

「……スピカ」

ぽつりと名前を繰り返して。

「大、丈夫……」
 
 
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