第一章
「やれやれ」
小さく息を吐き出して。地面に腰を下ろした姿勢だったマスターは徐に立ち上がる。
「調査報告は戻ってから改めて伺うとしよう」
「ハイエナも目を光らせていることだしね」
続けざま嫌みたらしく吐き捨てたクレイジーも立ち上がると至極面倒くさそうに服に付着した砂をはたき落として。
「What?」
「お前たちには当面無縁の話だ」
「余計なこと嗅ぎ回るなよ」
怪訝そうな視線を向ければ口々にこれだ。ある種のフラグというものだがこの場ではどう問い質したところで口を割るつもりはないらしい。
「ほら。さっさとしろよ」
クレイジーが命じるとダークピットは背中の翼から黒い羽根を一枚毟った。薄笑みを浮かべたまま振り向きざま真っ直ぐ投げれば付け根が虚空を突き刺して──そこから縦に波紋が広がりやがて奥に赤紫色の世界覗かせる洞を開く。
「それでは」
先の戦いは何だったのかというような柔らかな笑みを浮かべて挨拶されたのでは釣られて頭を下げてしまいそうになる。丁寧に締め括る兄の傍らでその弟が不機嫌そうな面持ちで赤い舌を出すのだからその気も削がれるわけだが。
「じゃ」
マスターとクレイジーに続けてほんの少しだけ名残惜しそうに此方を気にかけながらタブーが洞の奥へ足を進めていったところで上司の居ぬ間にとばかりにダークピットは薄ら笑いを浮かべて振り返る。それでも背中を取られてしまわないように細心の注意は払いながら最後の最後まで此方を正面として捉えつつ。背中から洞を潜る。ふわりと黒い羽根の一枚を残して。
「また遊ぼうねえ」