第十章



雫の滴る音。──水飛沫。

「っ、え」

ルーティが小さく声を洩らしたのと同時かそれより早いかウルフは腕を払ってルーティを跳ね除けたかと思うと後頭部に手を回して無理矢理押さえ付けるようにして身を屈めた。同じ頃、不審な気配を感じ取ったカービィも体を反らすことでそれを回避したがはらりと髪の毛が切られて落ちる。その正体も分からないまま。


……肝心のそれは。

その先に居たスピカの元に──


「、っ!」

呼ぶより早く何かが駆け抜けた。

恐ろしく速いそれは自分たちの間を縫うように抜けると風を切る勢いで棒立ちのスピカに容赦ない攻撃を繰り出す。投擲されたそれも次なる攻撃もスピカは全て見透かしたかのように体を軽く反らして躱し受け流したが弛まぬ攻撃を前に頬を切られて少量の赤が舞う──ルーティも思わず、身を乗り出しそうになった。

「っ、ウルフ」

けれど。待てとばかりに目鼻の先に腕を伸ばして阻まれてルーティは思い留まる。

「急に出てくるじゃん」

そんな風にカービィはぼやいたが冷静に考えてもみればこれまでこうならなかったのがおかしいくらいなのだ。ダーズの洗脳を受けたら最後制御の利かない暴徒と化してしまうのだから。

「……誰だ?」

血溜まりを踏む音なのか先程からバシャバシャと水の遊ぶ音がする。それに対抗するようにバチバチと鳴き声を上げて黒の電撃が飛び交う事態である。近付けば巻き込まれる不動を余儀なくされた状況に四人は息を潜めて見守るばかり。

「……!」

けれどその内に暗闇には目が慣れるもの。

ルーティは思わず目を開く。

「ミカゲ……!?」
 
 
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