第十章
……お願いすれば本気でやってくれそうだ。
「そ、それは流石に」
「だよねぇ」
へらへらと笑いながら返してはくれたがカービィは目を合わせようとしなかった。それもそのはずようやく触手に見放されて地面に転がったそれはパートナーである。これが実際に複製なのだとしても言い出した割にしまったと彼自身も思ったことだろう……軽はずみな発言はすべきではないという教訓を垣間見た気がする。
「やってみればいいじゃねぇか」
それだというのにまたこの人ときたら!
「……はぁ?」
苛立つ声を発して睨みを利かせるカービィを無視してウルフは進み出る。
「偽物ならガワだけで中の方は詰まってないって寸法だろ」
例の複製の前に片膝を付いて前髪を雑に掴み持ち上げればハイライトの失せた金色の目が瞼の下から覗いた。肌色が悪いのはエネルギーを搾取されたからだろうか……ダークシャドウとは違って頭の先から爪の先まで本人と瓜二つであるばかりにどうも心臓に悪い。
「ちょ、」
パートナーに似せた偽物、とはいえそんな扱いをされれば誰だってそんな声も出る。
「っ……いいよねあんたはパートナーが無事で」
そしてこれである。
「あ?」
今度はウルフが苛立った声を上げた。
「自分のパートナーが無事だから気楽でいいよねって言ってんの」
「……んだとテメェ」
「それとも? ならず者集団の親分様にとっては日常の光景すぎて違和感なかったとか?」
これはいけない。
「カービィ!」
「う、ウルフも落ち着いて!」
親が子を叱り付けるように強めの語気で呼ぶラディスと徐に立ち上がるなり手だの足だのが出そうな勢いでカービィに接近しようとするウルフをすかさず腕を掴んで止めるルーティ。敢え無く両者睨み合いといった最悪の状況に思わず苦虫を噛み潰したような顔をしていたその時である。