第十章
決して褒められない状況に加えてこの場所だというのにくだらないやり取りを繰り広げる二人を眺めていると例え過ごした期間は短くともそこに確かな絆はあったのだなと思い知らされる。一方でスピカは立ち上がっても尚二人を見つめていた。そうも気になるものだろうか。
「行くぞ」
遊びは終わりだとばかりにふんと鼻を鳴らしたウルフが歩き出した。空気が読めてるんだか読めてないんだか──等と小言を零しながらルーティは急いでその後を追いかける。
続けざま「はぁーい」と間延びした返事をしながらラディスを胸に抱えたカービィ。スピカは後に続こうとして立ち止まる。形容し難い違和感が突如として鈍い頭痛となって襲えば自然とこめかみに手が伸びた。じくじくと刺すような頭痛は熱を残して遠ざかる。スピカは眉を寄せた。
「……誰、だ……?」
鼻腔を突く血生臭い匂いに眩む。
未だ蠢く触手から垂れて滴った先の血溜まり。
ある程度、想像はしていたが。
「……大丈夫?」
ルーティはぎくりと肩を跳ねた。
「あ、……あー……はは、は……」
とても誤魔化せるような笑い方でもない。
「複製、だよね」
藁にもすがるような質問に。
「……どうだろうね」
まるで希望を跳ね除けるように。
「、カービィ」
「本当のことじゃん」
気を遣えないのかとばかりにラディスに呼ばれても尚カービィは狼狽える様子もなく。
「ご希望なら腹掻っ捌いて中見てみるけど」