第十章
だって、……今更。……見間違えるはずが。
「ルーティ?」
きょとんとした顔で(それでも相変わらず目は見開いて口角を持ち上げて笑っていたが)覗き込んでくるダーズによってようやく硬直は解かれた。とはいえ平静を取り戻したかといえばそうではなく、ルーティは「ああいや」と乾いた笑い声混じりに返して改めて見つめる。
「大、丈夫」
……間違いない。スピカ本人だ。
毛先が外側に跳ねた癖のある黄金色の髪も新月の夜を映したような漆黒の瞳も──ダーズによる洗脳を受けている証である紫の灯も双眸を見た限り確認出来ないし一瞬正気かとも思ったが彼自身は虚ろな様子でダーズを突き放そうともしない。
「知り合いだった?」
ダーズは小首を傾げてスピカと腕を組む。
「てめえっ」
反応したのはダークウルフだった。
「リーダーから──」
「はいはい分かりましたから」
「落ち着こうねぇウルフさん」
すかさず両側からダークファルコとダークフォックスが腕を捕まえて抑えてくれたのでよかったが放っておけば噛み付く勢いである。ダーズはきょとんとした顔で彼とスピカを見比べると。
「お前、りいだあって名前なの?」
盛大な勘違いをしている。
「その子は」
ルーティが答えようとしたが直後。
「違う」
ゆっくりと口を開いたのは。
「……俺は」