第一章



「ウルフ!」

ほんの少し肩を上下していたがゆっくりと息を吐き出して構えていた脚を下ろすパートナーにルーティは思わず声を上げる。

「く……そが……!」

兄の身を案じる余裕もなく上体を起こした破壊神は当然のことながら虫の居所が宜しくない。

「言ってろ」

ウルフは鼻を鳴らす。

「どのみちここで終わりだ」

程なく足下に浮かび上がる重い紫色の光を灯す魔方陣は彼らのものではなく。地面から伸びた黒を塗りたくられた細い手の群れが双子の腕や脚に絡み付いて捕らえる。その闇魔法を唱えた双子軍師の兄を揃って睨みつけていればその傍らで火の粉を散らせながら赤の魔導書を構える少女の姿を見つけた。少女は視線に気付くと薄笑みを浮かべて最大火力の魔力を解き放つ。

「ボルガノン!」

差し向けられた手のひらの前方に赤い魔方陣が浮かび上がったかと思うと程なく炎の柱がごうごうと音を立てながら放たれた。容赦なく突き進むそれは地面を抉りながら標的の双子に突撃する。その間僅か数秒──周辺の草木に微かに火の粉が移り事態の行く末を見守っていた筈の動物たちも只ならぬ身の危機というものを感知したのかもう既にこの場にはいない。

「しっ」

誰が喋り出すより早くマークが静止を促した。

「!」

次の瞬間である。──黒煙を火の粉を全て払い除けたのはひとりの少年。薄紫色の緩く結った襟足の長い髪を靡かせて振り向けば創造と破壊の力を受けた証ともいえよう赤と青の瞳が伏せられていた瞼の奥から徐に覗かせて。

間髪を入れずまるで手を出すなと警告するかのように半透明且つ極彩色の特殊な羽根が背中に展開される。攻撃は下さないがただ静かに見つめるその少年を知らないというはずもない。

新世界創造計画用人型禁忌兵器。創造と破壊の力を与えられて生み出された禁忌の存在。

「……タブー!」
 
 
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