第九章



誰もが口を噤んでいた。……否定しなかった。

それが──それこそが彼ら自身もスピカのことを思い慕っているという何よりもの証拠且つ想いが届いている証明。ルーティは微笑んだ。

「捨て駒なんかじゃないよ」

安心したように顔を綻ばせて。

「……だから」

ゆっくりと語りかける。

「生きて──取り戻そうよ」


じわりと滲んだのは。零れ落ちたのは。


「……正直」

ダークウルフは頭を垂れながらぽつりと。

「この世界なんざ幾らでも滅んでくれたらいいとさえ思っていた」

紛い物というだけで。光に弱いというだけで。

どれだけ働きかけても化け物で。どんなに真似たところで本物には成れず敵わない現実を対峙する都度突き付けられても尚。兵器として、駒として計画の為に影虫で生成された脆い体を削られる。

別段。人並みの幸せを望んでいた訳でも。

必要だと思ったことも。


なのに。

貴方と会ったから。会ってしまったから。


「一緒に戦ってくれる?」

微笑みを湛えながら問い掛ければ。

徐ろに顔を上げたその人の目には先程までのやるせないそれではない確かな闘志が宿っていて。

「……ああ」
 
 
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