第九章
とまあ。比喩表現が若干のノイズではあるものの──最後の切り札とはタブーのことを指し示しているのだろう。万が一にでもこの世界がどうにもならないのだと判断が下された際にタブーの放つOFF波動を使ってリセット──基、何もかもをゼロにして強制的に全てを終わらせる。
あってはならない最悪の結末。
故の最終手段。最後の砦となり得る存在。
でも。
「時間稼ぎ、って」
引っ掛からないはずもなかった。
「そんな言い方は」
「分かっている」
ダークウルフは遮るように。
「本物じゃない時点で弁えているつもりだ」
影が差す。
「その為に生まれてきた」
胸が騒いでいる。
「俺たちは」
偽物として生み出された時点で。
ずっと昔から……最初から。
「そんなことないっ!」
辺りがしんと静まり返った。
「……ルーティ」
ピットが眉尻を下げながら名前を呟く。
「確かに──ダークシャドウはX部隊を倒す為に生み出された偽物で……マスターやクレイジーにとってはそうだったのかもしれないけど」
辛そうに眉を寄せながら語るルーティに。
「同情っスかぁ?」
ダークフォックスは軽薄な態度で。
「俺たちもう慣れっこっスよぉ」
「同じこと。スピカの前でも言える?」
その目に憂いを帯びながら。ルーティがぽつりと呟くようにして言うとダークフォックスはぎくりとした様子で珍しく口を噤んだ。
「君たちがそうじゃなかったのだとしても」
ルーティは緩く拳を握り締めながら。
「スピカにとっては」
言葉を紡ぐ。
「……本物の家族だったはずだよ」