第九章
音もなく鞘から引き抜いた剣の側面をルーティの首筋にあてがったのはダークリンクだった。そうでなくとも薄暗い食堂の中には幾つもの赤の双眸が不気味に浮かび上がり此方の動向を終始見張っているというのだから過った判断は許されない。彼の話した通りどちらが優勢かという話なら火を見るより明らかなのだ。
「ぼ、僕たちは争いに来たわけじゃなくてっ!」
ルーティは両手を軽く挙げながら訴えかける。
「分かっていますよ」
ダークファルコはせせら笑う。
「あなた方が自ら敵地に足を運ぶなどよっぽどのことでしょう。そう、例えば──」
顎に指の背を添えながら目を細めて。
「"神頼み"とか」
次いで視線を受けたのであろうダークリンクも小さく舌打ちを混じらせながらもようやく剣を鞘に仕舞ってくれた。殺気に近しい視線が半数以上は減少した事に安堵しつつルーティは向き直る。
「……そう、だね」
ダークファルコはまた意味深に笑う。
「それにしては肝心の神様が見当たりませんが」
「あら。神様ならここに居ますよ」
「宗教が違うので」
パルテナの発言を笑顔で跳ね除けながらもダークファルコはようやく本題に触れる。
「その様子だと良くない結果に落ちましたか」
「……うん」
「っ、リーダーは」
今度は食い気味にダークウルフが訊ねた。
「……順を追って説明するよ」
時計の音が鳴り響く。
何処に飾られているか見当も付かないが。
「……そう、か」
全てを話し終えた後でダークウルフはその語られた事実をゆっくりと呑み込むようにして眉を寄せながら小さく呟いた。誰よりもスピカを思い慕う彼にとっては辛い知らせだったことだろう。
「どうりで見かけないわけじゃん」
「思っていたよりも深刻な状況ですね」
頭の後ろで腕を組みながらぼやくダークフォックスは恐らくマスターとクレイジーのことを指しているのだろう。ダークファルコは息を吐く。
「それで。我々に一体何をお望みでしょうか」
要望を言うより早く口を挟むように。
「相手が光の化身ともなれば限界がありますよ」