第九章
敵──なんて一概に言ったところで今更実感が湧くはずもない。スピカの存在ありきとはいえ基本的には友好的に接してくれているし言葉のキャッチボールが出来る程度には話も通じる。感性の違いこそあれどそれは敵味方問わず誰が相手であれ無いとは言い切れない話だし油断しきった意見で申し訳ないが信用の置けない相手という括りではないことだけは確か。
「あ」
なんてルーティが考えを巡らせていたその隣でウルフがノックも無しに扉を押し開いた。礼儀も何も無いなと思いながらも彼の潔さに便乗してその後ろからひょいと部屋の中を覗き見たが明かりがついていない関係でよく見えない。
「ち、ちょっと」
かと思えばずかずかと無遠慮に室内に踏み入るのだから流石のルーティも焦った。周りの目を気にしてはみたが各々好き勝手に行動しているのを見て小さく溜め息を洩らしてしまいながらその後を追いかけることにする。
さて。……部屋は表の世界における自分たちの屋敷の部屋と同じ十畳程の広さで当然のように窓が存在しなかった。これに関しては亜空間には太陽や月が存在しない関係からそれなりに納得がいくのだがまさかの天井の照明器具が部屋に入ってすぐ横に見つけたスイッチを押したところで反応を示さないという始末。それほどまでに彼らダークシャドウは極力はありとあらゆる光を避けないといけないということなのだろうか。
「……?」
妙な音が聞こえる。
「あ」
ふと何かを見つけたルーティは向かって左奥のベッドに駆け寄ると枕元に置かれたそれを手に取った。手触りからその正体を何となく察しながらも裏返してみれば──写真である。
見覚えのある人物。
これは。ピチカの写真だ。
つまりここがスピカとダークウルフの部屋ということでまず間違いないだろう。変な部屋を引き当てなかったことにほっとしながらルーティは先程から何かに注目して沈黙している様子のウルフを振り返って話しかける。
「……ウルフ?」