第九章
不気味に軋む扉を思い切って押し開きながら暗闇の中へと恐る恐る足を踏み入れる。相変わらず音もなく気配すら感じられない状況に本当に彼らがこの屋敷の中にいるのだろうかと疑問すら抱こうとしていたが直後揶揄うようにして勢いよく扉が閉まるのだから大袈裟に体が跳ねた。まったくどうしてお化け屋敷でもないというのにこんなにも心臓に悪い挙動をするのか理解できない。
「居ませんね」
そう言ったパルテナが杖の柄で床を軽く叩くとどんな力が働いているのやらルーティ達の周囲がほんの少し明るくなった。これに関しては流石は光の女神の為せる技、ということで納得するとして問題は何処に向かうかである。
「好き勝手ウロチョロするなよ」
行動に移すより早く釘を刺された。不意を打ったようなウルフの言い付けにぎくりと肩を跳ねたルーティは思わず苦笑いを浮かべてしまう。これといった宛てもなかったばかりに片っ端から扉を開けてやろうかとも思っていたが慎重に動いた方が無論賢明だろう。
「陰気くさい所だな」
「冥界の方が賑やかですよ」
そしてこの言われようである。
「はやく外の空気が吸いたいです」
パワハラかな?
「部屋割りとかも反転してるってことだよね」
そんな空気など気にも留めない様子でずんずんと先を突き進むカービィに従ってエントランスホールの両階段から二階へ。暗闇のお陰か先の見えない通路の両端には点々と一定の間隔で扉が置かれていて言わずもがな部屋が充てられている様子──カービィはその内の手前の扉など目もくれないまま足早に中程まで歩みを進めていく。
「この辺じゃない?」
カービィがそう言って足を止めるとルーティは辺りを見回した。脳裏には表の世界にある自分たちの屋敷の風景が浮かび上がり重なって反転して間取りを照らし合わせていく。
「誰でもいいわけじゃないのか」
「早死にするよ」
訊ねるラディスにカービィは呆れたように。
「敵なんだからね。一応」