第九章
力強く踏み込んで地面を蹴り出せば本来望まない戦いの火蓋が切られた。襲い来る仲間たちの猛攻を躱す中で隙あらば確実に打ち込む──例えばこれが大乱闘のシステム内であれば受けた傷も与えた傷も回復するが現実はそうもいかない。だからこそ振るう拳や払う蹴りに迷いが生じてしまう。
「あははっ」
ルーティの回し蹴りを腕を交差して受け止めながら笑ったのはヨッシーだった。
「優しいんですねえ」
赤く縁取った目を開いて口の端を吊り上げる。
「キーラ様はもぉっと優しいんですよぉ?」
不穏な空気が肌を逆撫でる。
「ぅあぐっ!」
悲痛な声に気付いたのだろう攻撃を受け流しながらウルフが振り向いた先でルーティは地面を転々と跳ねて転がっていった。自身が駆け付けるよりも早く黄色い影基ラディスが飛び出してルーティの前に四つ足で立ちはだかり、電気を全身に帯びるのを見届けてウルフは小さく舌を打ちながらも次に降り注いだ攻撃を躱して切り返す。
その相手が仲間だから何だと理由を付けて本来の力を出し切れないなら端から前に出るなと罵声を浴びせてやりたいのは山々だが残念ながらそれこそがあのパートナーの性分だと嫌というほど知らしめられている。だからといって引き下がる訳にもいかないだろうと撃ち込まれる銃弾含む飛び道具を赤い反射板を展開させて弾きながらウルフが眉間に皺を寄せて低く唸っていれば。
「──光の戦車!」
この声は。
「きゃああああっ!」
女性陣の声に振り向いてみれば目にも留まらぬ速度で光の物体が駆け抜けた。高く舞い上がるそれをよくよく目を凝らして見てみればその正体は光り輝く戦車とそれを牽引する二匹の神獣と名高い一角獣ユニコーン──そしてそれらを従えていたのは先程叫んだ声の主たる天使の。