第一章
バキン、──手応えのない音が鳴り響く。
「おやおや」
その防壁を展開させた主は嘲るように笑う。
「父君には遠く及ばず、か」
気配のようなものを察知して素早くその場から飛び退けば棘の群れが地面から突き出す。一瞬でも判断を誤ったなら串刺しにされていたことだろう。薄笑みを浮かべて親しげに語りかけてくるその相手が亜空軍を指揮する首領であるということを身を以て思い出させられる。
「……くく」
皹の一つも入らない。弟が攻撃のエキスパートなら兄である彼はそれとは真逆。侵攻を許さぬ絶対防御でありとあらゆる攻撃を無に帰す──加えてそれだけに特化した能力ではなく同様に攻撃も回避も弟相手に引けを取らない。
まさに。史上最悪の──天才。
敵でなければどんなに心強かったことだろうと悔やまれる。最も絵空事の世界の中であれば敵対など有り得るはずもなく多く戦士たちの味方であり不祥事は支援サポートと援護を徹底する頼もしい存在であるらしいのだが──今の今更それを羨んだところでどうしようもない。
けど。
「はあああッ!」
連続して飛来する赤いエネルギー弾を躱して力強く地面を蹴り出し高く舞い上がる。二度三度前転したのち稲光纏う脚を降下と同時に防壁を目掛けて振り下ろせば。
「……!」
ビシ、と皹の走る音に確かな手応え。
「僕の名前はルーティ・フォン」
マスターは静かに目を開く。
「──父、ラディスを越える男だッ!」