第九章



例え。目には見えなくとも魂というものはこの世界に残り続ける。その魂さえもキーラの力で点在する光の球として具現化した上で他の器を借りることが出来たのだとしたら──

ピカチュウがラディスとして目を覚ましたあの時──顔を顰めながらマスターはそんなことを呟いた。恐らくウルフも得られた情報から似たようなことを考えて納得に至ったのだろう。ラディスとルーティは顔を見合わせて安堵の息をついた。

「信じてくれてありがとう」

ふいと顔を背けるウルフにラディスは微笑する。

「それにしても」

ルーティは思い出したように。

「なんでウルフは元に戻ったんだろう?」

一生元に戻らないとまでは思っていなかったが少なくともこの事態が終息するまで絶望的なものとばかり思い込んでいた。そういえば──谷底に落ちたあの時も対峙していたはずのパルテナとピットが正気を取り戻していたな。共通する点といえば激しい戦闘を繰り広げていたくらいなものだがまさか力技でどうにかなるとか……?

「知るかよ」

ウルフはふんと鼻を鳴らす。

「何にも覚えてねえ。ただ──強い衝撃が走って気が付いたらあの場所にいた」

ルーティは直前までの記憶を思い出す。

眩いばかりの白い光に視界だけじゃない何もかもが包み込まれたあの時──確かにダーズの声が頭の奥にまで響いた。もし仮に洗脳を解いたのが力技だけの話じゃなかったのだとしたら彼が慈悲を下した可能性だってある。……でも、どうして?


いや。


悩むだけ無駄なのかもしれない。

神様はいつだって気まぐれなのだから──
 
 
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