第八章
先に目覚めていたらしいラディスの腕には何処かから摘んできたのであろう赤や茶色の小粒の木の実が抱えられていた。それは果たして腹の足しになるのかそもそも食べられるものなのか定かではないが問題なのはそこではない。
「父さ」
言いかけて、銃を構える音。
「なんだテメェは」
「わ、わーっ!?」
後何回この下りを繰り返すことになるんだ!
「ちっ違うんだウルフこの人は」
「どう見たって人じゃねぇだろ」
「そ、そうなんだけどそうじゃなくて!」
「自己紹介がまだだったね」
ラディスは狼狽える様子なく。
「俺はラディス・フォン。ルーティの父親だ」
「舌の回る害獣だな……?」
「うわーっ!?」
悪化してる!
「ほほほっ本当に父さんなんだよ!」
「鼠が喋るわけねぇだろ!」
「僕喋ってるじゃん!」
「テメェは人のナリしてるから──」
その時である。
「!」
生い茂る周囲の茂みの何れかが不意にがさりと不穏な音を立てれば揉み合っていたウルフとルーティも流石に動きを止めて其方に注目した。気付いたラディスも急ぎ、傍らまで駆け寄るとそれまで抱えていた木の実を地面の上に置いて。
「おい」
「洗えば食べられるさ」
「そうじゃない」
茂みはもう一度揺れて不安を掻き立てる。
「だ……誰かいるの?」
「受け応えの出来るような連中か?」
まさしく正論で言葉を返していれば。