第八章
崖に掴まる手が不意に──ずるりと。
それが。お前の答えなんだね?
そんな声が頭の中にまで響いてきたお陰で必死に叫びながら追うように飛び出してきた父の声までは聞こえなかった。ルーティは左手を伸ばして小さな体を受け止めながら右手でパートナーを引き寄せて纏めて抱き締めれば直後白い光が眩く。
奇跡って。
視界も何も白という白に包まれながら。
人間の力や自然法則を超えた常識では起こるとは考えられないような不思議な──それこそ神様によって為されたなんて信じられている偶然の現象のことを指すんでしょ?
声が響いてくる。
じゃあさ。
それが偶然じゃなくて必然だったとしたら?
不思議と意識が遠退く中で。
小さく控えめに笑う声が聞こえて。
それはもう。
"施し"と言っても過言ではないよね──?
「ふふ」
白から黒へとゆっくり移り変わる。
「もしかして」
まん丸とした目を細めて笑う。
「ぼくって神様に向いているのかも」
先程までルーティ達が居た空間とはまた別の場所にあるのであろう暗く冷たい深い闇が広がるそこで鼻歌混じりに体をゆらゆらと揺らすのはダーズだった。地面に座り込んで擦り寄る触手を撫でる彼の胸には何かが抱かれている。
「あーあ」
ダーズはその何かの肌に優しく触れながら。
「喋んなくなっちゃった」
口角を吊り上げる。
「お兄様」
何も映らない虚空を見上げて愛おしそうに。
「はやく会いたいなぁ……」