第八章
風を切る音に合わせて腰を落として身を屈めて回避しながら空いた懐に両手を翳して挨拶代わりの最大出力の電撃をお見舞いする──けれどそれより早くその相手を守るようにして赤い防壁が展開して電撃を余さず四方八方へ弾いた。ルーティが驚き硬直している間にラディスがその隙を埋めるようにして助走を付けてその相手の懐へ飛び込み渾身の頭突きをお見舞いする。
「父さんっ!」
そのまま暗闇の中に転がったその相手とラディスは互いに噛み付いたり引っ掻いたりと揉みくちゃになってしまっている。急いで駆け付けたルーティはその相手の姿をはっきり目視して大きく目を見開いた。……灰色の大きな耳に尻尾。
今更。見間違えるはずもない。
「ウルフ……!?」
こんな所で再会することになるなんて。
「ぐあっ!」
相手にしているのは小動物も同然の大きさの生き物だというのにそんなラディスを容赦なく引き剥がして蹴り飛ばしたウルフは浅い傷を負った体を引き摺るように起こしてルーティを睨んだ。
「う、ウルフ……」
最後に会ったのは光の化身キーラによる猛攻から免れるべく息を切らせていた時か──圧倒的な力を前に絶望する他なくいつまでも逃げ惑う自分を抱えて逃げてくれた。逃がしてくれた。
それから。……この人は。
「ヴ、ぅウ」
苦しそうに呻いて頭を抱えたウルフを案じようと一歩前に進み出たが直ぐさま普段と異なる紫色の瞳が此方を睨んだ。キーラの光にあてられて洗脳されていた皆とはまた様子が違う。
「ウルフ……っ!」
繰り返し呼びかける。
だって、目の前にいるのに。
「ヴァアアアァアアアアッ!」