第八章



どうして。お兄様。……どうして。

ここに来てまだ意識を取り戻していなかった際、遠く聞こえた声はダーズのものだった。暗く寂しい常闇の中で辛うじて生死を彷徨いながら何度も何度も繰り返し彼は助けを求めたのだろう。


きっと、兄なら気付いてくれる。

助けてくれる──


「父さん」

ルーティは零れ落ちる涙を拭うのも忘れて。ただ呆然と虚空を見つめながら聞いた。

「マスターとクレイジーの過去を見た時」

ラディスは掴んでいた服の裾を手放す。

「……どう思った?」


何の為に見せたのか分からない。

心を委ねたかったのか。それとも此方が人一倍にお人好しであることを見越して、こうして事に至った経緯を見せておけば邪魔立てはしてこないだろうなんて踏んで牽制のつもりで見せつけたのか──後者だとすれば彼はあまりにも賢すぎる。


全く以って。

その通りでしかなかったから。


「……僕」

だって。あんなものを見せつけられたら。

感情移入してしまったら。

「僕……っ」


とてもじゃないけど。

僕には。彼らを止めることなんて──
 
 
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