第八章
こんな世界が美しいはずがない。
こんな世界に愛を費やすなんて狂ってる。
「ふふ……ふふふっ……」
こんな世界は間違ってる。
「あははっ……」
血溜まりはまるで少年の絶望の感情に呼応するかのようにぼこぼこと沸騰して──やがて幾つもの紅色の鋭利な先端を持つ黒い触手が頭を擡げるように姿を現す。それは少年を愛でるかのように慰めるかのように纏わりつくと淡い紫色の光を灯しながら少年の傷を取り除き、癒したのだ。その代償か否か少年が天空人である唯一の証たる金色の髪は瞬く間に黒に呑み込まれて。ゆっくりと瞼を開けば途端結膜は黒く塗り潰される。
「ぁは……お兄様……」
ライトシアンの瞳に映り込むのは。
少年の抱いた感情とは似ても似つかない──どこまでも広がる夜明け前の美しい群青の空。
「えへへ……ありがとぉ」
少年はまるで甘えるように頬に擦り寄る触手をひと撫でして言った。彼らに感情があったのか否か定かではないがそれがただの気まぐれであれ少年の感情に寄り添い手助けしたのは確かだった。
そうして光を失う代償として得たのは。
「……お兄様」
待っていてね。
ぼくが迎えにいってあげる。
「ふふふ」
こんな世界は似合わないからね。
救ってあげる。愛してあげる。
「お兄様」
殺してあげる。