第八章



落ちる。堕ちる。

冷たい風が髪を肌を容赦なく切り付けながら。伸ばせど届かない手を必死にばたつかせながら落ちゆく先はこの世界の奈落。泣いても叫んでも当たり前に声という声は見えない何かに呑み込まれて──走馬灯を思うより早く最期が訪れる。


どしゃり、と。


「う」

そんな生々しい音に小さく声を漏らしたのは他でもない自分自身だった。想像を絶する映像に咄嗟に口を塞いで眉を寄せることでほんの少しだが現実に引き戻されたようで。それでも隣で心配そうに見つめている父の声は相変わらず耳に届かないままだったが、それ即ち見せられている惨劇にはまだ続きがあることを示している。

ルーティは恐る恐る映像に視線を戻した。


お兄様。……お兄様。


こういうものは自分を呼びかける愛しい人の声に誘われるようにして意識が回復するものだと思い込んでいたけれど。自分の意識を呼び戻したのは助けを乞うように繰り返す自分のか細く情けない泣きそうな声で。いつからそんな風に呻いていたのかは知らないが少しずつ少しずつ視力や聴力が戻ってきて現実に馴染んでいく。

「ゔ、ぁ」

ずるりと体を引きずって。

口の中がネトネトして気持ち悪い。

「オニィ、さま、ァ」

必死に息を繋ぎながら不思議と笑みが溢れる。

「ド……こォ、?」
 
 
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