第八章



その夜は。空に浮かんだ満月を引き立てるかのように一帯が足下さえ窺えない程に暗く沈んで静寂に満ちていて。吐く息も触れる風も決して優しいものではなく冷たさばかりが肌を刺す。


そんな凍えるような夜に。

悪辣で。残酷な。


運命を分かつその日は訪れる。


「……?」

大天空界の最西端とされるその場所に。

辺りを見回しながら現れたのはひとりの少年。


例えば。

本当にふたり一緒に神様に成れるのだとして──君はそれを信じるか?


信じていない。それでも一欠片でも望みがあるのならその可能性に身を委ねたい。自分がどう言われようと何をされようと気にならないがお兄様が傷付くのは嫌だ。……お兄様だけは。


誰よりも。

幸せになってほしいから。


「!」

足音を立てないようにして背後からゆっくりと近付いてきたその人に気付くのが遅れてしまい振り向いたと同時に腕を掴まれる。

「やだっ」

押したり引いたり。何が目的か知らないが上手く影が差して表情すら窺えないその人は。対抗しながら声を上げる少年を無視して突き飛ばす。

「ぁ」

体が大きく揺らいで。

小石と土の粒を巻き込みながら。


真っ逆さまに。


「や」

少年は大きく目を開いて叫ぶ。

「お兄様ッ!」
 
 
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