第八章
『大天空界』なんて呼ばれるその場所は遙か下にある海や大地とは厚い雲に遮られて孤立していてまるで楽園のようだと語られている。
天に一番近いのではない。まさしく天なのだ。
そんな大層な場所に暮らしているのは、ぱっと見こそ普通の人間と変わらないが耳が小さく折り畳まれた鳥の羽根で尚且つその体に聖なる光を宿した天空人と呼ばれる種族。白磁の肌に黄金色の透き通った髪色であることは共通していて見る人が見ればまるで天使のようだと囁くことだろう。
そんな彼らの憧れが──神である。
天に一番近いのだから。
天使だと囁かれるくらいなのだから。
神にだって成れるだろうなんて。
そこで重要視されるのが聖なる光ならば。
光が強ければ強い程可能性に満ち溢れるならば。
新しい天空人が生まれ落ちる都度祈る日々に終止符を打ったのが──お兄様。天空人の中でも類を見ない聖なる光に恵まれて天から贈られた神様に成るべくして生まれた子ども。
それだけならよかった。
他の天空人と比べて極めて光の量が少なく。
子ども体温にさえ達しない。
そんな忌み子が血を分けて生まれたばかりに。
愛されてしまっているばかりに。
その兄は愛する弟に光を受け渡すようになる。
天空人はいつしかそれが微笑ましい兄弟愛から織り成されるやり取りだと思えなくなる。さながら命を吸い取る死神のように、片割れの存在が疎ましく。憎たらしく。……お前さえいなければ。
お前さえいなければ!