第八章



「ダーズ様」

司祭の男は微笑みかける。

「私で良ければ──」
「大丈夫だよ」

ダーズは立ち上がると衣服に付着した埃を手で叩いて払った。髪を適当に直して両手を後ろに回し肩を竦めて笑えば司祭の男は口を噤む。

「お兄様が心配するから、戻るね?」

そう言って無邪気な子供を装い軽やかな足取りで部屋の入り口へ向かおうとすれば。

「──ダーズ様」

タイミングを見計らったように呼び止める。

「なぁに」

ダーズは振り返らない。


「良い夢を」


ひと呼吸置いて紡がれたその言葉に。

親しみの意味など込められているはずもない。


「うんっ」

ダーズは振り返った。

あどけない笑みを浮かべながら。

「司祭様もね?」


足音が遠ざかって、やがて失せるのを確かに聞き届けて司祭の男は途端に目の色を変えて呟く。

「……寄生虫め」

もう一人の男は眉を寄せて頭を下げた。

「申し訳ありません……」
「いい。笑っていられるのも今の内だ」

司祭の男は進み出てその男の手から用紙を手荒に奪い取ると目を走らせて笑み。

「こんな物を見たところで」

くしゃり。用紙を握り締めて目を細める。

「……明日の夜はいよいよ満月だ」

紙屑と成り果てたそれを床に放り捨てながら。

「自分の仕事を忘れるなよ」
「──はい。司祭様」
 
 
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