第八章
知ってるよ。……知ってるけれど。
ダーズ。愛しているよ。
「なんだその目は」
自分は一体どんな目を向けていたのだろう──男の声にハッと気付いた時には遅く前髪を荒く掴まれた。そのまま力任せに引っ張るのだから体勢を崩して腕が机に当たってしまい机の上の物が音を立てながら床に飛び込んで。
「──お前のせいだぞ!」
いたい。
「お前が居なければ今頃キーラ様は!」
痛い痛い痛い。
「キーラ様はッ!」
靴音。
「何をしている」
男が慌てて手を離すのでダーズはまたも体勢を崩してそのまま床に尻餅を付いた。ぐつぐつと煮えていた感情がまるで氷にでも当てられたかのように急速に冷め切っていくのを感じながらダーズはゆっくりと顔を上げる。この事態に気付いて部屋に足を踏み入れながら口を挟んだのは白い衣装に身を包み眼鏡を掛けた高身長の男。
「これはこれはダーズ様」
オレはこの男が嫌い。
「勉学に励んでおられたのかな」
大嫌い。
「し、司祭様……」
そう呼ばれて慕われるこの人は。
「下がりなさい」
祝福の鐘の音が天に鳴り響いたあの日。
……おれとお兄様の。
運命を決めた張本人だから──