第八章
お兄様。
頭の中にまで響く幼い声にルーティは反射的に足を止めた。ラディスは数歩先を歩いていった後に気付いて立ち止まり、振り返る。
、父さんの声が聞こえない。
確かに口は動いているのに声も音もこの耳は。マスターとクレイジーが治療と称して何をしたのか分からないがどうやらそれも効果が薄れてきてしまったようで。手足の微かな痺れと目の奥の鈍痛にルーティは大丈夫、大丈夫だよと口を動かして繰り返しながらゆっくりとその場に座り込む。頭を抱えて頭を垂れていればそれが誰であれ体調が芳しくないものと見抜けたことだろうラディスは慌てて駆け寄った。
……お兄様。
ルーティはゆっくり閉ざしていた視界を開く。
「、え」
目の前にはさながら映画館のスクリーンの様にして大きな白いウィンドウが浮かび上がっている。此方の身を案じて揺する父親の声は相変わらず聞こえない。程なくして遠くカラカラと映写機の音が聞こえてきてルーティはウィンドウの中で織り成される映像に釘付けになる。
音も声も。やがて鮮明に。
それはまるで自分が追体験するかのように。
「──お兄様!」