第七章
左腕を。──触手が捕らえる。
「ち」
小さく舌を打って左目が赤く瞬けば斬撃が触手を切り刻んだ。そのままエネルギーピラーを握り潰して消滅させたかと思うと握った拳を目前のダーズ目掛けて振るう。直撃──かと思いきや手応えはなくダーズの体は蝋が溶けるかのように黒く変色して爛れて黒の粒子へ。直後に背後に気配を感じれば振り向きざま回し蹴りを仕掛けるも容易く回避。ダーズは両手を後ろで組みながらにやりと嗤うと首を傾ける。
「疲れちゃった?」
「誰がッ」
空間転移を使い目にも留まらぬ速さで接近して拳を蹴りを見舞うが悉く躱されてしまう。
「流石だよクレイジーハンド。それにマスターハンドもね」
ダーズは目を細める。
「おれとお兄様を本気で仕留めるつもりで全力を尽くしてくれたんだもの」
頬を掠めたが口元には──笑み。
「でも残念。ちょっと足りなかったね」
次の瞬間ダーズは目前に。その手には触手を束ねて生成された巨大な金槌が握られている。クレイジーは顔を顰めて後退を図るも背後に浮かび上がった複数の黒い魔法陣への反応が遅れてしまう。刹那魔法陣の中心から飛び出してきた黒い鎖がクレイジーの三肢を捕らえた。
「……神力が」
ああ。
「クレイジー!」
叫んだのはルーティではなくマスターだった。
弟の体が砕かれる勢いで一撃を叩き込まれるのをその目にしたのでは当然だ。遠隔であれ補助を徹底しているつもりだったが自分でも分かるほどに反応速度が低下している──やはりこれだけの神力で攻め落とすのは口が過ぎても無謀だったか。
「く、」
得意の防戦も限界が近い。螺旋した羽の追尾を空間転移を使いながら躱すも追いつかれる。即座防壁を展開して突撃を防ぐも砕かれる。光の束は目前にまで。
「──!」
青い雷が光の束に突撃した。
「マスター!」
ラディスが叫ぶ。
「今の内にクレイジーを!」