第七章
けたけたと嗤う声。
蠢く黒の触手を引き連れて。
現れたのは。
「あれが」
ピットは思わず声に出して言った。
「混沌と闇の化身ダーズ……!」
光と闇──まるで彼らふたりを表したかのような空を彩る二つの色はどちらがこの世界を己の色で全て染め上げるものかと鬩ぎ合っているかのようだった。ダーズの周囲は特に暗い紫の色が深く。それが本来彼の情緒を乱していた光の存在というものを中和させているようで。
「うふふ」
ダーズは肩を竦めて嬉しそうに。
「お兄様が目を覚ましてるって聞いたから急いで会いに来ちゃった」
打って変わってキーラは黙っている。
「何をして遊ぼうかなあ」
「……愚弟」
ようやく口を開いたかと思えば。
「耳障りな声で鳴くな」
ルーティは思わず顔を顰めそうになった。
「えへへ」
ダーズは照れ臭そうに笑う。
「……お兄様」
次の瞬間。空気がずんと重くなる。
「どうしてそんなこというの?」
殺気が。肌を突き刺す。
「ぼくのお兄様はぼくを愛してるからもっと優しく撫でて愛でて抱き締めて愛して甘やかしてくれるはずなのにどうしてお兄様はお兄様の偽物は」
キーラは呆れたように息を吐き出す。
「くどい。だから浅薄で愚かだというのに」
「違う……違う違う違うッ!」
尚も向ける軽蔑の目の色が変わらない。
「お兄様お兄様お兄様!」
ダーズは眼孔を開いて見据える。
「"あの時"殺しておけばッ!」