第六章
陰る。……
「ふたりは喧嘩したことってある?」
突拍子もない質問だった。
「どうだったかな」
「あるよ。兄さん覚えてないの?」
「……記憶にないな」
「まあ確かに指で数える程度だったけど」
創造神と破壊神ともなれば役割も真逆なので噛み合わない場面こそ多そうなものだが何より深く愛し合っているふたりだ。喧嘩に発展しそうな言葉も行動もそれすら愛おしく映ってしまう彼らなら喧嘩なんて珍しいくらいだろうな。
「ルーティ」
マスターはひと言そう呼んで、
「お前の体を隅々まで確認させてもらった」
……!?
「どすけべ」
次の瞬間自分の体を両手で抱くようにして青ざめているルーティにクレイジーが言い放つ。
「お前の言い方は語弊を招く」
「こいつが勝手に先走ってるだけだろ」
「み……見たというのは」
マスターは小さく息を吐いて。
「記憶。お前とダーズのやり取りだ」
申し遅れたが現在一行は先頭を歩くパルテナを頼りにある地点を目指している最中である。
「──兄を信仰に近い形で敬愛しながらも光に対して強い恐怖心を持ち、その上で歪んだ感情さえ抱いていた。普通の喧嘩とは異なる事情が絡んでいるものと見てまず間違いないだろう」