第六章
混沌と闇の化身──神力の蓄えも確かに感じられるし口から出まかせの厨二病といった訳でもなさそうだ。マスターがちらりとクレイジーを見るとクレイジーは小さく頷いて宙吊りにされたまま頭を垂れて動かないルーティを捕らえている鎖を視界に捉えた。即座赤黒い斬撃が鎖を破壊して落下するルーティを左腕で器用に受け止める。絡み付いていた触手はそれぞれが意思を持っているようで尚もルーティを引き戻そうとしていたがクレイジーがひと睨みするとおずおずと身を引いて影の中へ。
「賢明な判断だな」
どうやら戦うつもりはないようだ。マスターは依然として警戒を解かないまま見つめる。
「えへへ」
ダーズは肩を竦めて笑う。
「だってお兄様が来てくれてるんでしょう?」
幸せそうに笑う。
「いいなぁ」
ふふふ。ふふふふふ。
「おれとお兄様も創造神と破壊神みたいに仲良くできるかなあ」
これ以上は関わらない方が良さそうだ。
「兄さん」
クレイジーが呼びかけるとマスターは一瞥だけくれてダーズを睨み付けた。ダーズは変わらず嬉しそうに笑っている。
「お兄様って」
マスターが隣に並ぶ頃にはクレイジーが空間を切り開いて待機していた。マスターは渦を巻く先の見えない空間を見据えながら。
「ああ」
静かな口調で答える。
「恐らく──」