第六章
ルーティは少しずつ後退して。ちらりと後ろを見ると一気に駆け出した。ざりざりと地面を引き摺る音風を切る音確実にダーズとは違う別の生き物が迫っている。──この空間の何処かにずっと身を潜めて手を出さなかったという事はやはりダーズが使役しているのか。
「!」
行き止まり。ルーティは息を詰まらせながら振り返る。蠢く影がもうすぐそこまで迫ってきているのが見えて辺りを見回した後飛び退いて回避──影は壁に激突して砂埃が舞い上がる。
「ダーズ!」
返答はないまま視界の端に影を捉えて。
ルーティはその場から飛び退きながら頬にぱちぱちと閃光を走らせると着地と同時に腕を突き出して雷を放った。雷は青白い光を放ちながら影に突撃すると爆発を起こす。
その時。──確かに見えたのである。
蠢く影の正体。
先端が赤々とした──黒の触手の群れを。
「いたい」
暗闇に浮かぶ水色の目玉が瞳を揺らしている。
「痛いよぉ」
悪気が充満する。
「お兄様」
ダーズは繰り返し同じ事を呟いている。焦点は合わず此方に注意を向けていないにも関わらず攻撃を仕掛けてくる黒の触手はダーズの意思がどうあるかなど関係ないのだろう。
「くっ」
それにしても。
走れど走れど行き止まりばかり。本当に落ちてきたのだとしてもしかして外の世界に出られる抜け穴は存在しないのではないのだろうか──