第五章



ざわざわ。ぞわり。

背後で何か蠢く音と寒気と。冷たく刺すような視線と憂いと哀しみと。様々な負の感情がその瞬間背中に集中してルーティは恐る恐る。


振り返る──間もなく。


「え」

谷底から伸びてきた黒い触手がルーティの脚を絡め取ったが刹那──引きずり込む。

「ルーティ!」

事態に気付いたカービィも直ぐさま救出に向かおうとするもそれを知ってか知らずか襲いくるピットが行く手を阻んで許さない。

「マスター!」

ラディスは声を上げる。

「クレイジー!」

それぞれがその方角に注目した。一方は地上。もう一方は上空から。

「、な」

クレイジーは驚きのあまり声を漏らす。


断崖絶壁の暗闇には。

大きく見開かれた巨大な目玉が──


「くふ」

幼い声が笑う。

「いけないんだぁ」

嗤う。

「お兄様」


ラディスは立ち塞がるピットを頭突きで撃退し崖から谷底を覗き込む。小石がこぼれ落ちる中息子らしい姿は影も形も見当たらない。

「ルーティ!」

叫ぶ。

「ルーティ!」


悲愴な声を呑み込んだのは。

底の知れない暗闇か。


それとも。
 
 
 
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