第五章
ゆっくりとそちらに目を向ける。
「カービィ」
そう口を動かしたのは──ピカチュウである。
「、は」
名前を呼ばれた当人もこればかりは困惑を隠しきれない。ポケモンが口を動かして喋ったことなど近年では問題にすらならない。幻や伝説と謳われる種であれば珍しい話でもないしそうでなくとも時間をかけて人語を理解するポケモンだっているのだから。
「えっと」
問題なのは。
「あー」
そのポケモンから発せられる声が。
「……ラディス?」
十数年前に殉職したあの男の声ということ──
「いや」
カービィは視線を彷徨わせて。
「違うよね」
自嘲したように笑う。
「だってあいつ死んだし」
自分でも分かりやすいほどに挙動不審になっている。心臓が落ち着かない。真偽をばっさりと切り捨てる双子ですら黙っている。こういう時だからこそ有り得ないとか何とかってさっさと吐き捨ててもらいたいところなのに。
「マスター」
助けを乞うようにルーティが口を開く。
「……有り得ない、……話じゃない」
マスターは珍しく眉間に眉を寄せていた。
「例え目には見えなくとも魂というものはこの世界に残り続ける。その魂さえもキーラの力で点在する光の球として具現化した上で他の器を借りることが出来たのだとしたら」
じゃあ。
「……本当に、……僕の……父さん……?」