第五章
以前にも似たような場面に出会した気がするが洗脳とは一概に言っても種類が違う。愛らしく可憐で無邪気な普段の彼女と振る舞いは変わらないはずなのに。幸福感に満たされて眩しくて陽の光のように温かいのに。
「っ!」
ひと度触れたなら無数の狂気が刺す──
「させないわ!」
体の表面に青白い閃光を走らせながら向かってきたピチカを蹴り飛ばして。両手を突き出して電気の束を放とうとするルーティだったが隙を突いて懐にリムが飛び込んできた。砂利を踏み込むも振り上げられた拳が顎を突き上げてルーティは表情を歪める。すかさずカービィが飛び込んできてリムに肉弾戦を挑むも今度は蹴りを受け流され、投げ飛ばされてしまう。
そういえば彼女は有名格闘道場の一人娘で物心ついた頃から武術を教わっているのだった。
「いったぁ!」
カービィは木の幹に体を叩き付けられて。
「ちょっと見てないで手伝ってよ!」
八つ当たりのように声を上げた先には双子。
「出る幕もないだろう」
「お前たちと違って手加減できないので」
自負している。確かに彼らにしてみれば壊してしまったところで作り直せばいいだけなのだ。協力をお願いしたところでその圧倒的実力差で情け容赦なく叩き伏せるだけの話だろう。
「うわっ!」
間一髪で飛び退いた。リムの正拳突きによってカービィがそれまで背中を預けていた木が真っ二つになってしまったのだ。とはいえ実際思考が洗脳を受けているというだけで目で見る限り身体能力に関しては普段と大差ないかのように窺える。それでも馬鹿力なのは御免だが。
「二度も三度も言わせないでちょうだい」
立ち込める砂煙の中紅い光が不気味に揺らぐ。
「キーラ様が見ているわ」
砂煙を突き破る。
「邪魔をしないでッ!」