第四章



真っ逆さまに。背中から。空が遠ざかっていくのをぼんやりと見つめてから瞼を閉ざす。


「いっ」


手放しかけた意識を掬い上げたものがあった。正確には体ごと。事態を何も呑み込めていない呑気な青い空は視界いっぱいに。全身で受ける風と触れた機体の冷たさが懐かしい。

「ウルフ!」

希望が体の芯からじんわり広がるのを感じた。

「相変わらず運のないヤツだ」

こんな奇跡のような偶然があっただろうか──絶対絶命のピンチに最も信頼するパートナーが駆けつけてきてくれるなんて。妄想が先走って幻覚を見ているんじゃないかとルーティはぺたぺたと自身の頬を触ったが感覚がある。

「ううん」

ルーティはにへらと笑って。

「ウルフが来てくれたんだから大吉だよ」

ふんと鼻を鳴らす音。彼らしい返答に心地よささえ感じてしまうが生憎の状況。ウルフの操縦するウルフェンはぐっと機体を傾けてぐんぐん上へ昇っていく。司令塔の外壁に沿って垂直に飛行──かと思えば機体は形状を変えて『対地強襲用歩行形態』の肩書きを誇るまるで巨大な狼を連想させる"ハンター"の姿へ。

あっという間に元の階層まで戻って硝子を突き破り戦場に参じる。そこでようやくルーティは何が起こったのかを把握する。

「まったく」

後輩の一太刀を弾き返して剣を振るい。

「無茶をしてくれたね」

険しい顔付きで剣を構え直すのは──マルス。

彼だけではない。剣術を得意とする面子はもちろんX部隊のメンバーの約半数がこの戦場に参じてくれていたのである。

「どういう」
「これで君を逃がせる正当な理由が出来た」

歩み寄ってきたロックマンが微笑する。

「俺たちは正義部隊という立場上、あくまでも上の命令には逆らえない。その為のSPでさえ収集をかけられるのであれば従う他ない。上の命令はこうだ──古代兵器の覚醒まで足止めをしろ。素直に従えば君たちは阻止に間に合わない計算となるが他の介入があれば話は別だ」

ルーティはコックピットの中のウルフを見る。

「……じゃあ」
「物事は常に三手先を読むべし」

マークは魔導書を閉じると。

「──正義部隊は突如として乱入した特殊防衛部隊との応戦中に目標を見失った」

口元に笑み。

「マスターとクレイジーは先に向かっている。君たちも急いで最上階に!」
 
 
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