第一章
創造神マスターハンド。絵空事の世界の中では最も穏やかで紳士的で慈愛に満ちたこの世界の主だが彼の者はそれと大きく異なる。
自分と愛する弟の目的とあらば手段は選ばず時として己が手掛けたファイターを人形や模造品などと吐き捨てる。彼ら兄弟の意向に背く行いさえ避ければ敵として立ちはだかることもなく素直に従うなら彼らなりの慈愛で応えてくれるのだが都合よくあれと嗤っているようなもの。
従うはずもない。
だから。彼らは僕たちの──敵だ。
「くくく」
不敵に笑って指を鳴らせばたちまち乗っていた機体の左翼が創生された。
彼の者の創造の力というものはあくまで創造に徹したものであり治癒魔法などによく見られる再生は行うことができないため似たような形をとりたい場合は不要部分をある程度取り除いてあった方が寧ろ都合がいいのだ。
「お手数おかけしました」
「何、羽根が無くては飛べないだろう?」
やはりあの機体──アーウィンを操縦していたのはダークファルコだったか。礼を述べるその彼にマスターの小さく笑う声がウルフの操縦席から雑音混じりに無線を通じて聞こえてくる。
「しかし。偶然とは思えないな」
ルーティは顔を顰める。
「マスター様」
と。上空から舞い降りてアーウィンと並行して滑空する黒い天使が一人。
「弟様が何者かと接触された模様です」
「おやおや」
小さく笑ってまたも視線が投げかけられる。
「我々はお暇させていただくとしよう」
「マスターハンド!」
マークが思わず声を上げる。
「威勢の良いことだ」
けれど構う様子もなくマスターは指を鳴らす。
「──それでは」