第三章



……え?

ルーティはもう一度タブーを見る。薄く開かれた瞼から覗かせた瞳に光は宿っておらず正気を感じられない。そうして困惑していると今度はクレイジーがその手に持った赤い塊を見せ付けるように差し出した。流石のルーティも思わず肩を跳ねたがようやくのこと違和感に気付く。

「お前たちと違うだろ」

臓器だと思われていたそれはまるで宝玉のようだった。かといって本当の宝石のように美しいそれかと言えばまた違うが──つるつるとした表面で多少弾力があるといった造りのそれは、よく知る心臓とは全く別物だろう。

「それはそいつのコアだ」
「……核」

マスターは頷く。

「そのままの意味だな。謂わばそれがタブーの本体といっても過言ではない」

ルーティは思わず核を凝視した。

「核から信号が送られることでタブーは意思を持って体を動かすことが出来る」
「つまりそいつを取ると?」

唐突に質問を投げかけられぎくりとして。

「……止まる?」
「正解」

クレイジーはにっこり。

「強制シャットダウンってヤツ。こいつをもう一度セットすれば普通に動き出すと思うよ」

何度も口にしている割に理解していなかった。彼は新世界創造計画用人型禁忌兵器──普通の人間ではない。であれば体の作りが異なるのも何ら不思議な話でもない。

「……思う?」

何となく引っかかって聞き返した。

「そう」

クレイジーはふっと笑みを掻き消す。

「例えるならパソコンと同じ。強制的に電源を切った時──データはどうなると思う?」
 
 
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